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最終更新日:令和3年12月16日

<連載コラム>

エックハルトの言葉を読み解く(1)

「エックハルト説教集」(岩波文庫)に掲載されたマイスター・エックハルトの言葉を数回に分けて考察する。エックハルトをよく知らない方は、過去のブログ記事で紹介していますのでよかったら御覧ください。

さて、まずエックハルトは説教の中でこのように語った。

さて、ある師は次のように言っている。神が人となり、そのことによって、全人類が高められ、貴いものとされたのである。私たちの兄弟であるキリストがみずからの力で、天使たちの全群団をこえて昇天し、父の右に座すことをわれわれは心から喜びたいと。この師の語ったことは正しい。

『神が人となり』の部分は、神学上は受肉と表現される。受肉は、キリスト教の重要概念であり、なぜイエス・キリストを信じることで救われるのかというキリスト教の救いの原理を根源的に支える事実の一つといってよい。この受肉については様々な解釈が存在するが、一般の信者においては、極めて有り難いことが起きた程度の理解がほとんどであり、またそれで十分ともいえる。何故なら、深く理解しないと救われないというわけではないからだ。イエス・キリストを幼子のように純粋に信じるならば、神学的な理解がどうであれ、人はその罪を許されて救われる。しかし、様々な解釈が信徒の信仰を深め、又は、未信者を信仰に導くことがあるのも事実なのであろう。それが故に、「師」と呼ばれるような立場の人は、一般信者に比してより深い理解を求め、その理解に基づいて説教を行う。

さて、上記引用に出てくる『ある師』は、『神が人となり、そのことによって、全人類が高められ、貴いものとされたのである。』と述べている。これは受肉の意義を説明しているのであるが、信徒でなくとも感覚的には理解できるのではないだろうか。例えば、1991年に雲仙普賢岳が噴火した際、天皇及び皇后(当時)が被災地を訪問した際、陛下はスーツの上着とネクタイを外され、ワイシャツ姿で被災者の話に耳を傾けた。災害発生直後に訪問することも、ラフな服装で被災者に接することも前例がなかったらしく、当の被災者はもちろん、テレビ映像を通してその姿を見た国民にも少なからぬ衝撃をもたらした。被災者の目線に立てば、高貴なることこの上ない、日本国の象徴たる方が自分たちと似たような服装で親身に接してくれたのであるから、感謝の念のみならず、自分たちにはそれだけの価値があるという感覚を抱いたであろうことは想像に難くない。あるいは、もっと身近な例で例えるなら、皆に尊敬されるような立派な人や偉い人と友達になれたことで、自分自身の格までもが上がったような気になり誇らしく感じるようなものだ。

次に、『ある師』は、『私たちの兄弟であるキリストがみずからの力で、天使たちの全群団をこえて昇天し、父の右に座すことをわれわれは心から喜びたいと。』と述べている。これは、キリスト教の教義におけるイエス・キリストの復活とその後の昇天を意味している。文言としては復活についての言及がないが、それを含めて考えるのが妥当だろう。

この箇所の記述では、先程の論理とは逆で、『私たちの兄弟である』ほどに信仰による強い絆が形成されたイエス・キリストが『天使たちの全群団をこえて昇天し、父の右に座す』ことにより、私たちの地位や格がイエス・キリストと同等のレベルまで引き上げられる、ということになる。前述の例でいうならば、貧しい一般庶民の娘が立后(天皇陛下との結婚)したことで、その娘の親兄弟が天皇陛下の親族になるようなものである。そうしたことを意味して、『ある師』はそのことを『心から喜びたい』と述べたのである。

今回取り上げた引用部分の直接的な読み解きは以上であり、次回からはそれに引き続く核心部分の読み解きに入っていくが、最後に、キリスト教の教義における復活及び昇天について少し説明を加えておきたい。

まず、昇天についていえば、聖書の記述は比較的淡白であり、例えば、「… 主イエスは、弟子たちに話した後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。」(マルコによる福音書16章19節)、「そして、祝福しながら彼らを離れ、天に上げられた。」(ルカによる福音書24章51節)のように具体的な描写に乏しく、昇天がどんな風に起きたのかの詳細は不明である。ただ、復活に比べれば教義上の重要度ははるかに低いといえる。

イエス・キリストの復活については、上記の受肉以上に解釈は様々であり、一般的にこう理解されているという共通の解釈を確立することさえ困難である。そもそも、復活の定義として、その復活が単なる肉体の復活を指すのか、肉体のない霊的な存在としての復活を指すのかで解釈が分かれる。そして復活の意義についても、キリスト自らも予言していた自己の死と復活が確かに成就されたことでその神性を自ら示したものであるとか、旧約・新約の双方を含めた聖書全体の内容が復活において完成されるとか、信仰を通じて享受するとされる永遠の命を象徴するものであるとか、あるいは、そういった意味を複合的を有しているとか、数多くの解釈が存在する。また、解釈以前に、本当に現実的に死から復活したのか否かという考古学的な検証も数多くなされている。中には、医学的に死んではおらず一種の気絶状態であったにすぎないという見解も呈されている。

このように、キリスト教教義の中核たる概念の一つであるにも関わらず、復活についてはまさに議論百出の様相を呈したままである。ただし、前述の受肉と同様、イエス・キリストの復活を的確に理解できないからといって、進行による救いの道が閉ざされるものでもない。私見では、一つの解釈に固執する必要はなく、信仰のあり方や段階に応じてそれぞれの復活概念があってよいと考える。

文責 コウゲツ(当サイト運営者)

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(11月下旬に公開予定です。)

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